瑠璃のかなたに

思い出のパラダイス

私たち家族は戦後、韓国から引き揚げて来た、いわゆる引き揚げ者の家族です。父の仕事の関係で戦前の韓国でも、引き揚げ後の日本でも再三、引っ越しがありましたので自分の故郷を特定することが出来ません。そんな中、私にとって最も印象深い家は私が小学校に入学する直前までの1,2年居住した韓国の全州の家です。その後一度もその土地を訪れたことはありませんし、たとえ訪れることができたとしても町並も変わってしまっていることでしょうから、その地を特定することは不可能でしょう。というわけで私の故郷は私の心の中に夢とも現実ともいえない形で残っている全州の家です。その家は高い石塀で囲まれていて、広い庭がありました。
門を入ると両脇に低木を植えられた石畳の小道に導かれ玄関にたどりつきます。玄関の前に大きな八重桜の木がありました。あるときその木に毛虫がいっぱい群がったかと思うとあでやかな模様の無数の蝶が飛び立ったのを目にしたこともありました。中庭は縁側の前に広がっていてそこで大勢で餅つきをしたり、花火をしたり、たき火で焼き芋を焼いてもらったり、ブランコにのったり、竹馬で遊んだり・・・そこはもうパラダイスそのものでした。
縁側近くの空き地を残して庭の奥の方にはたくさんの木々が植わっていました。
縁側からまっすぐ奥の石塀のそばにはリンゴの木がありました。ニュートンがリンゴの木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を思いついたという逸話はこの木を思い出させます。もっともこの逸話はニュートンの家の近くにリンゴの木があったことから後世の人が作った作り話だそうです。
奥の角っこには大きな花の咲く木がありました。小学校の4、5年生のころの教科書にのっていたオスカー・ワイルドの「わがままな大男」に出会って思い出したのはこの庭の光景です。その時には気づかなかったのですが、大男が出会った小さな男の子の両手両足にあった傷はキリストが磔り付けにあったときの釘の跡、いわゆる聖痕を意味しているのですね。大男は最後に良い行いをしてキリストによって天に召されたというお話しのようです。オスカーワイルドは品行は良くなかったとはいえ、古いプロテスタントの家柄の出だそうです。ヨーロッパの文学とキリスト教の関わりが密のようですね。
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by pypiko | 2010-11-02 18:29 | 過去の思い出