田中秀央著 初等ラテン語読本より(34-5)
さて、キクロープスたちはシチリア島、特にエトナ山に住んでいた牧者だった。
エトナ山には鍛冶屋の長であり、火の発見者であったバルカヌス(つまりへパイストス神)が彼の仕事場をもっていて、キプロプースたちは彼の奴隷であった。
ところでオデッセウスたち一行は怪物を見るや否や気絶しそうになった。
ギリシア人たちは洞窟の内部に逃げ込んで、そこに身を隠すことを試みた。
さて、このキクロープスはポリフェムスと呼ばれていた。
彼は家畜を洞窟の中へ導いた。その際入口を巨大な岩で塞いだ。
それから洞窟の中で火を起こした。
その後、一つ目で全体をよく調べて、洞窟の内部に人間たちが隠れていることに気が付いたので、大声で叫んだ。
「お前たちは誰だ。商人かそれとも盗賊か」。
そのときオデッセウスはこのように答えた。
「自分は商人でもないし、略奪にやってきたものでもない。トロヤからの帰りに嵐の力で正しい航路から外れてしまった。どうか自分たちに害を加えないで再び立ち去ることをゆるしてほしい」と頼んだ。 そこでポリフェムスは、「船はどこに漂着したのか。彼らはどこへ運ばれたのか」と聞いた。
オデッセウスは十分の用心しなければならないことをよく理解したので、「自分の船は岩にぶつかって粉々に砕けてしまった」と答えた。
しかしポリフェムスは何も答えないで仲間のうちの二人を手でつかんで彼らの手足をもぎ取ってむさぼり食べ始めた。