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瑠璃のかなたに

ダーチャ・マライーニ

シチリア旅行を目前にして、図書館でシチリア関係の本を書棚から取り出してはつまみ食していました。そんなときに見つけたのがダーチャ・マライーニの「帰郷 シチリアへ」でした。
ダーチャ・マライーニについては全く知りませんでした。先ず巻末の訳者の解説を読んで興味を覚えました。
彼女は1936年生まれですから、私とほぼ同年輩です。つい最近亡くなった彼女の父は文化人類学者で日本研究家フォスコ・マライーニ。自国イタリアのファシズムを逃れて、妻と娘ダーチャを伴って日本に留学したそうです。アイヌ文化を研究しつつ北海道大学、京都大学で教鞭をとり、多くの日本人と交流していたそうです。父はファシズム政権への忠誠を誓うための書類に署名することを強要され、それを拒否して政治犯となり、一家は2年間、名古屋の強制収容所に隔離されたそうです。官憲の厳しい監視のもと、他のイタリア人政治犯と共に、ダーチャはおよそ7歳から9歳までの2年間を収容所で過ごし、東海大地震、名古屋の大空襲を体験し、すさまじい飢えを経験したそうです。日本人の外地からの引き揚げ者の私たち家族も同時期、同じような飢餓の苦しみを体験しています。「帰郷 シチリアへ」は収容所暮らしから解放されシチリアへ帰郷したダーチャ・マライーニの子供時代を描いたものです。帰郷したシチリアは結婚前の母が、貴族社会のしがらみを嫌って家を飛び出し、フィレンツェで父と結婚した母の故郷ですが、ダーチャが一番愛した父は母以上にシチリアの没落貴族の社会になじめなかったのかダーチャの子供時代に、子供のダーチャには分からなかった理由で、ある日、忽然と家を出たきりだそうです。ダーチャは成人して小説家、詩人、劇作家として成功しています。
もう一つ私が興味を引かれた理由は、ダーチャ・マライーニの私生活です。私のイタリア語講座で読み終えた「ラ・ストーリア」の著者エルサ・モランテとの関わりでした。エルサ モランテの夫であったアルベルト・ モラヴィア(イタリアを代表する小説家の一人)がモランテと離婚後、同棲したのが29才年下のダーチャ・マライーニ。モラヴィアはダーチャ・マライーニとの同棲生活の終止符を打った後、1985年に45才年下のカルメン・イェラと結婚。80歳を過ぎても現役の作家として旺盛な執筆活動を続け1990年に死亡しています。アルベルト・ モラーヴィア、エルサ・モランテ、ダーチャ・マライーニと名前を列挙するだけでイタリアを代表する大作家の名を目にするが如くです。アルベルト・ モラヴィアは二人の偉大な女流作家を育てたのでしょうか、それともアルベルト・ モラヴィアが二人の才能ある女流作家の影響を受けたのでしょうか興味のあるところです。
by pypiko | 2012-04-03 09:24 | その他